橘曙覧(たちばなのあけみ)の世界

橘曙覧(たちばなのあけみ)の世界イメージ

幕末の福井藩に生まれた歌人。
生活の中にある素朴な楽しみを詠んだ「独楽吟」の中から自然、夫婦、家族愛を人形で再現。

人形作家 石井美千子の仕事紹介 橘曙覧(たちばなのあけみ)の世界再現

橘曙覧 (国学者 歌人 福井県)

中央の歌壇と交わることなくひっそりと一地方の歌人として清貧の暮らしの中で生涯を送ったその人は、奈良時代の権力者で左大臣右大臣を歴任した橘諸兄(たちばなのもろえ)を先祖とあおぎ、自分はその末裔として困難な日常にあっても、揺るぎないプライドで国を愛し、平和を尊び、家族を愛した人でもありました。
国学者として 古体歌への深い理解に基づいた曙覧独自の歌風は越前藩時の名君松平春嶽公に様々な影響を与えたといわれています。
その歌の特徴といえば、日常生活に題材をとり身近な言葉で詠んだことです。
曙覧はのみシラミがたかる彼自身の生活や、土間から生えた竹など、赤裸々に生活実感を詠み、その中で魚や湯豆腐を食すことのささやかな楽しみを歌いました。
特に「独楽吟」と呼ばれる「たのしみは」で始り「のとき」で終わる短歌はわかりやすい言葉でストレートに日常の機微を詠っています。
花鳥風月を詠むことが主流だった当時としては曙覧の存在は異彩を放っていたといえます。
後に正岡子規が彼の遺稿集を絶賛し、1994年には天皇皇后両陛下のご訪米の歓迎式典で、クリントン大統領が先の「たのしみは 朝起きいでて昨日までなかりし花の咲ける見る時」を歓迎スピーチの締めくくりの言葉としたことで、曙覧は一躍脚光を浴びることになりました。
福井市はこれまで独楽吟にちなんで全国公募を展開し、これまで50000通を越える「たのしみは」の歌が寄せられているということです。
そして今年、福井市から橘曙覧記念文学館10周年記念事業として、曙覧の歌の世界を人形で表現するという企画を承りました。今後これを契機に曙覧が遺した「等身大の人間の幸福」というメッセージが深く広くひろがっていってくれたらいいなあと、曙覧の魂に触れたものとして素直に感じております。(石井・記)

橘曙覧(たちばなのあけみ)の世界 幸せのかたち

  • たのしみは 朝起きいでて昨日まで なかりし花の 咲ける見る時 橘曙覧(たちばなのあけみ)の世界
  • たのしみは まれに魚にて児等皆が うましうましといひて食ふ時 橘曙覧(たちばなのあけみ)の世界
  • たのしみは 機織りたてて新しき 衣を縫いて妻が着する時 橘曙覧(たちばなのあけみ)の世界

※ 上記掲載3作品は橘曙覧記念文学館(福井市足羽1丁目)にて常設展示されています。

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